工場建設の国内回帰が増加?メリットや課題とは | 工場建設パーフェクトガイド
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工場建設の国内回帰が増加?メリットや課題とは
公開日:2024.06.26 更新日:2024.06.26
製造業者の国内工場建設が増加しています。これは新型コロナウイルス感染症と円高の影響が大きい要因です。2016年から増加し、2024年には全体の約3割が国内回帰しています。この動きは、安定した生産環境を求める企業の反応として現れています。しかし、国内回帰を進める企業には、人手不足や用地確保の課題があります。
これらの課題に対応するため、製造業界では効率化と自動化が進められています。デジタル技術の導入により、少人数でも高い生産性を維持できる環境を整えることが可能です。AIや産業ロボットの活用により、作業の自動化が進み、人手不足の問題を解消します。これにより、作業効率が向上し、安定した生産体制が確立されます。
目次
製造業で国内に工場建設する企業が増加
新型コロナウイルス感染症と円高の影響により、国内に工場を建設する製造業者が増えています。2016年から増え始め、その割合は2017年で全体の約1割、2024年には全体の約3割まで伸びました。
◇製造業の国内回帰が増加
過去に日本の製造業が現地生産を拡大し、製造工場は海外に建設されるのが一般的でした。最近ではこの動きに変化がみられます。
経済産業省の「2017年版ものづくり白書」によると、独立行政法人日本貿易振興機構が行った「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」では、日本、中国、ASEANの三地域間での海外拠点の移管パターンに変化があることが判明しました。
具体的には、日本から中国への移管が減少し、中国から日本への移管、つまり国内回帰が増加しています。2017年に国内回帰、つまり生産拠点を国内へ移した割合は全体の約1割でしたが、「2023年版ものづくり白書」のデータによると2024年は全体の約3割まで増えます。
引用元:経済産業省「ものづくり白書」
◇国内回帰する理由
国内回帰が増えた主な理由は、次のふたつです。
・新型コロナウイルス感染症による影響
新型コロナウイルス感染症は、世界的に大規模な混乱を引き起こし、工場が稼働できない状況や供給の遅延などさまざまなトラブルを引き起こしました。それに伴う工場の稼働停止、輸送の制限が発生し、原材料や部品の調達が困難になり、価格が高騰する地域も出てきました。
このような新型コロナウイルス感染症によるトラブルが経営上のリスクと認識され、比較的安定して稼働できる国内に生産拠点を戻す企業が増加しています。
・円安の影響
円安とは、外国の通貨に対して日本円の価値が下がることです。例えば、中国の通貨に対して円の価値が下がると、現地通貨で現地の労働者に支払う金額が増え、円で日本人に賃金を支払ったほうがコストパフォーマンスは高くなります。
つまり、円安のときは、日本に生産拠点を移し、日本人もしくは日本に住む外国人を雇用するほうが生産コストを低く抑えられるのです。2024年現在でも1ドル150円以上を維持しているため、生産拠点を日本に戻そうという動きが活発になっています。
国内回帰に踏み切れない企業の悩み
企業がなかなか国内回帰に踏み切れない主な理由は、少子高齢化が進む日本では、新たに従業員を採用するのが難しいからです。土地は狭く十分な土地を確保しづらいことも、国内回帰に踏み切れない理由のひとつと考えられます。
◇人手不足
海外の工場では、現地の人を雇用するのが一般的です。工場を国内に戻せても、海外の従業員を連れてこられません。海外の工場と同じ生産力を維持するためには、国内で新たに人材を採用する必要があります。
しかし、日本では少子高齢化が進行しており、どの業界でも深刻な人材不足に直面しています。製造業も例外ではなく、従業員を採用が難しい状況です。
◇用地不足
国内回帰を進めるためには、工場建設用地の確保も不可欠です。日本は海外と比べて土地が狭く地価が高いため、気軽に新しい工場を建設できません。新たに土地を確保できない場合は、既存の工場で生産を行うことになりますが、急に製造ラインを2倍、3倍に増やすことはほぼ不可能です。
また、土地が見つかっても、日本で新たに工場を建設するには、多額の費用と長い時間が必要になります。工場建設の間は、生産もストップするため、企業にとって大きな損失となる可能性があります。
工場の国内回帰を成功させるには
工場の国内回帰を成功させるためには、人手不足の解決策としてデジタル技術の導入、業務効率化や自動化が有効です。
ベテラン作業員の技術継承も課題となりますが、彼らのノウハウをマニュアル化すれば、全従業員が一定の作業スキルを身につけられます。AIと産業ロボットを活用して、少ない労力で成果を上げることも可能です。
◇効率化と自動化
日本国内の製造業における人手不足の問題の解決策として、デジタル技術の導入による少人化や省人化が注目されています。
人員不足に緩和するためには、業務内容を効率化し、少人数での作業を可能にすることも重要です。例えば、工場内のレイアウトを変更して作業動線を短くするだけでも作業効率が向上し、その分人員を減らせます。
しかし、既存の仕組みを改善するには、新しい技術や発想も必要です。製造業でもIT技術の導入による自動化も進められており、AIやIoTを活用した生産工程管理、デジタルツインの活用など、デジタルトランスフォーメーション(DX)化が求められています。
◇技術や技能の継承
国内回帰に伴い、現地従業員の解雇が避けられない場合もあり、特にベテラン作業員を解雇すると、貴重な技術や技能が失われるリスクがあります。
しかし、ベテラン従業員が持つノウハウ(暗黙知)をマニュアル化し、そのマニュアルを活用して全従業員が一定以上の作業スキルを習得すれば、少ない労力で成果を上げることも可能です。
また、作業手順をAIに学習させれば、AIと産業ロボットを使ってその作業を自動的に行えるようになります。この方法であれば、新たに従業員を採用する必要がなくなるだけでなく、個別に教育する手間も省けます。
国内回帰は生産性の安定や地域創生に寄与
国内回帰を目的するデジタル化は、ヒューマンエラーの防止にも役立ち、生産性が安定します。大規模工場が地方に建設されれば、地方経済の活性化や税収増加などのメリットも生じ、地方創生も実現できます。
◇生産性が安定
デジタル化が進むと、手作業が不要になり人為的ミスが減るため、作業効率の向上し、生産体制の安定化も期待できます。自動化されたシステムでは少数の従業員でも稼働が可能なため、従業員の休暇や病欠による生産性の低下も防げるのも利点です。
円安の影響で輸入コストが上昇し、これまで安価だった外国製原材料の価格と国産の価格に違いがなくなってきました。そのため、多くの企業は生産拠点だけでなく、原材料の国内回帰を進めています。
◇地方創生
大規模工場の建設用地としては、広大な土地を確保できる地方が選ばれるのが通常です。地方に大規模工場が建設されれば、新たな雇用を生み出し、地方経済の活性化も見込めます。
さらに、自治体にとっては、税収増加や住宅需要の増加などの利点があります。工場の国内回帰により、都市と地方の経済格差や、人口減少の歯止めを目指す地方創生にも寄与できるでしょう。
製造業者が国内で工場を建設する動きが増加しています。これは、新型コロナウイルス感染症と円安の影響が大きな要因となっています。具体的には、2016年からこの動きが顕著になり、2024年には全体の約3割の製造業者が国内に生産拠点を戻しています。このトレンドは、企業が安定した生産環境を求める結果として現れています。
しかし、国内回帰を進める企業にはいくつかの課題があります。まず、日本では少子高齢化が進んでおり、新たな労働力を確保するのが難しい状況です。また、工場を建設するための用地を確保するのも一つの課題です。日本は土地が狭く、地価も高いため、新しい工場を気軽に建設することが難しいです。
このような背景の中で、製造業の生産性を向上させるためには、デジタル技術の導入や業務の効率化が重要です。例えば、AIや産業ロボットの活用により、少ない労働力で高い生産性を維持することが可能です。また、ベテラン作業員の技術をマニュアル化することで、技能の継承を図り、新たな従業員が一定のスキルを習得できるようになります。