工場建設の期間が長期化している?原因と対策方法を解説 | 工場建設パーフェクトガイド
工場建設の流れ
工場建設の期間が長期化している?原因と対策方法を解説
公開日:2024.11.19 更新日:2024.11.20
工場建設の工期が長期化する問題が近年話題となっており、その背景には民間設備投資の回復があります。内閣府の資料によると、実際に2023年度の民間設備投資は増加し、長期工事の受注が増加しています。
しかし、同時に人手不足や工事費の高騰も工期を延ばす要因となっており、設備投資計画の実行に支障をきたしています。また、2024年からの労働時間規制の強化により工期がさらに延びる傾向も見られます。
工場建設の流れは、企画、業者選定、設計、材料調達、工事、検査、稼働と多岐にわたりますが、発注者と受注者の適切な協議が重要です。協議が不十分だと仕様や工期にずれが生じ、工事が計画通りに進まない可能性があります。工期短縮は生産性向上やコスト削減、競争力の向上につながるため、効率的な工程管理が求められます。
目次
工場建設における工期の長期化問題とは?
工場建設は、規模もあって長期間になってしまいますが、昨今では工期の長期化問題が話題となっています。この工場建設の工期の長期化問題とはいったいどのようなものでしょうか。
◇民間設備投資の回復
近年、民間の設備投資は低迷していましたが、回復傾向が見られています。
内閣府が発表した資料「建設業の工期長期化と設備投資の動向」によると、2023年1~3月期には名目で年率換算100兆円を超え、2024年4~6月期には106.3兆円に達し、1991年の104.9兆円を上回って33年ぶりに過去最高を記録しました。
この回復には、特に長期的な工事の増加が影響していると見られています。民間の設備投資が再び増加した背景には、こうした長期工事の受注が増えたことがあると考えられます。
一方で、日本政策投資銀行の調査によると、企業の設備投資において、前年度比で計画から実績への伸び率が下方修正される幅が拡大していることが明らかになりました。企業の設備投資が当初の計画を下回る理由としては、いくつかの要因が挙げられます。例えば、人手不足による工期の遅れや、工事費の高騰に伴う計画の見直しなどです。
これらの要因は5年前と比較して一層顕著になっており、建設業界では工事の進行に対する影響が大きくなっています。さらに、これらの課題が設備投資計画に遅れを生じさせる要因となり、企業の設備投資実績に影響を与えていると言えるでしょう。
◇長期の工事が増加
民間の設備投資が回復した背景には、2023年度において工期が21か月以上に渡る長期工事が増加したことが大きな要因として挙げられます。長期的な工事の増加は、建設業界における設備投資の伸びを支える重要な要素となっています。
これに加えて、工事を受注した建設企業へのアンケート調査結果によると、2023年度において「短い工期の受注が増えている」や「大きな変化はない」といった回答の割合が減少し、代わりに適正な工期での受注が増加していることが明らかになりました。この傾向は、建設業界の環境が変化し、より長期的かつ安定したプロジェクトが増えていることを示しています。
また、2024年4月からは建設業にも時間外労働の上限規制が適用されることが決まり、年間労働時間の減少が顕著となっています。この新たな規制により、従業員の労働環境が改善される一方で、工期の長期化が進んでいます。
そのため、手持ち工事金額は増加しているものの、工事の進捗が遅れることから、出来高は思ったほど増加していません。このように、長期工事の増加と労働時間の規制が影響し、設備投資の状況に変化をもたらしていることが分かります。
手順が複雑になりがちな工場建設の流れとは?
工場の建設は、規模の大きさだけでなく、企業を対象とするため手順が複雑になりがちです。では、実際に一般的な工場建設の流れはどのようなものなのでしょうか。
◇企画と業者選定
工場建設の最初のステップは、建設の目的を明確にすることです。この手順は非常に重要で、なぜ工場を建設したいのかをはっきりさせる必要があります。これからのすべての手順は、ここで決定した目的に基づいて進んでいくため、慎重に行うことが求められます。
工場が稼働を始めてから課題に気付くこともありますが、場合によっては改善が難しいこともあるため、予想外の作業やコストの発生を避けるためにも、最初の段階でしっかりとした計画を立てることが重要です。
工場の企画が終わったら、次は業者の選定に進みます。業者選定では価格を重視することが多いですが、実績やその後のメンテナンスを考慮して、信頼できる業者を選ぶことが大切です。工場建設には、建築基準法だけでなく、工場立地法や都市計画法など、クリアしなければならない法律が多数あります。これらの法律に詳しくない場合、専門家の知識を活用するためにも、実績のある業者を選ぶことをおすすめします。
◇設計
企画が終わったら、次は設計に進みます。設計には「基本設計」と「実施設計」の2つの段階があり、この順に進めていきます。
基本設計では、企画の内容に基づいて、大まかな設計を行います。ここでは、建物の構造図や場内のレイアウト図などの基本的な図面を作成し、工場の全体像を決めていきます。また、業務のワークフローや従業員の動線、働きやすさを考慮しながら設計を進めることが重要です。この段階で工場の設計の骨組みが決まります。
実施設計では、基本設計をさらに具体化し、詳細な設計に入ります。具体的には、設備の配置図や建築設計図、機器製作図などを作成し、工場の稼働に必要な細かい部分を設計します。また、電気の必要容量や照明、換気設備など、実際の稼働に関わる設備設計もこの段階で進めていきます。
◇調達と工事
設計が完了したら、次は建築資材や部材などの材料を調達します。建築資材を選ぶときは、コストに加えて、その性能や安全性にも十分配慮する必要があります。コストを優先して安価な材料を選んでしまうと、安全性が損なわれるリスクがあるため注意が必要です。
また、将来の補修を考慮して、安定的に供給されている部材かどうかも確認しておくと安心です。
材料の調達が完了したら、次は実際の工事に入ります。工事を進めるにあたっては、あらかじめ具体的な工程計画を立てておくことが重要です。計画が不十分だと、予定通りに工事が進まないだけでなく、追加の費用が発生する可能性もあります。
工程管理は施工管理者だけに任せず、発注側もしっかりと状況を把握し、遅れが生じた場合は迅速に対応することが求められます。
◇検査ののち稼働へ
建設工事が完了すると、特定行政機関による検査が行われ、この検査に合格することで、初めて工場の使用許可が下ります。検査項目は多岐にわたり、建物の構造や設備機器、消火設備などが適切に設置されているかを細かく確認しされます。
稼働前には設備や機器の試運転を行い、不具合や問題がないかをしっかり確認することが重要です。もし問題が見つかった場合は、納得いくまで調整や改善を行う必要があります。試運転で問題が解決した後、工事施工業者からマニュアルや図面などの引き渡しを受け取り、工事完了となります。
注文者と受注者間の適切な協議で工期設定
工場建設は、注文者と受注者の間でのしっかりとしたコミュニケーションが大切です。ここがしっかりしていないと、正しく仕様が伝わらずに注文者の意図した工場に仕上がらないといったことにも繋がります。ここでは、双方の適切な協議の大切さについて解説します。
◇協議の重要性
注文者と受注者の協議は、設計通りの工場を建設するために必要不可欠なプロセスです。
令和5年5月に国土交通省が公表した資料「建設工事における適正な工期の確保に向けて」によると、工期の設定に関して、注文者と受注者が協議を行い、受注者の要望が受け入れられた場合、妥当な工期になった割合は82%に達しました。
一方で、要望が受け入れられなかった場合、工期が短くなったケースが約77%を占めています。このことから、適切な工期を設定するためには、発注者と受注者のしっかりとした協議が重要であることがわかります。
発注者は、受注者側の事情を理解することも大切です。そうした理解をもとに、双方が協議を重ねることで、信頼関係を築くことができます。受発注者間で積極的に話し合い、協力して適正な工期設定を進めていきましょう。
◇工期に影響を与える要素
工期に影響を与える要素として、注文者が受注者に適切な労働環境を提供することが重要です。国土交通省の発表によれば、工期を設定する際には、さまざまな要因を考慮する必要があります。
例えば、降雨・降雪や台風などの自然条件、週休2日の確保といった休日の扱い、法定外の労働時間、さらに現場の制約条件などが工期に影響を与える要素となります。
具体的な工程ごとに考えると、準備段階では、資材調達や人材確保にかかる時間を考慮する必要があります。施工段階では、各工程の特徴や進捗管理が重要です。最後の後片付け段階では、完了検査、原形復旧、清掃に必要な時間も見込んでおくことが求められます。
工場建設の工期短縮で生産性や競争力の向上を図る
工場建設において工期を短縮することは、単に早く完成させるだけではなく、多くのメリットがあります。工期の短縮はプロジェクト全体の効率化につながり、計画的な進行ができることもあり、結果としてプロジェクト全体の利益率を高める効果も期待できます。
◇生産性の向上
工期短縮において、無駄を減らし、作業を効率的進ませることで、工事が合理的に進むことに繋がります。このことは、結果的に生産性向上に繋がります。生産性が向上することで、短時間で質の高い作業を実施できることは、作業員の長時間労働の是正になるだけでなく、作業員の負担を減らす効果もあります。
業務の合理化に伴い労働環境が改善されることは、新たな人材が確保しやすくなる可能性もあり、よりよく工場建設が進むことになるのです。
◇コストの削減
コストの削減にも工期の短縮は有効です。工期が短くなればなるほど、作業員の人件費を削減できることになり、コストダウンに繋がるだけでなく、重機などをリースしている場合は、その費用を抑えられることに繋がります。
◇競争力の向上
工期を短縮することで得られる効果のひとつに、自社の強みとしてアピールできる点が挙げられます。発注者の多くは、できるだけ早く建物を利用したいと考えるため、短い工期は受注の決め手となることがあります。
さらに、工期が短縮されることで、近隣住民への騒音や交通への影響も減少し、周囲の負担を軽減できます。結果として、顧客や地域住民の満足度も高まり、企業の評価向上につながる可能性があります。
近年、工場建設の工期が長期化する問題が注目されています。この背景には、民間設備投資の増加が関係しており、2023年度には過去最高レベルの投資額が記録されました。特に、21か月以上の長期工事が増えたことが、工期の長期化を後押ししています。
しかし、設備投資の回復が工事の需要を押し上げる一方で、深刻な人手不足や資材価格の高騰といった問題が発生し、工期の遅延がさらに顕在化しています。2024年には、労働時間の上限規制も導入されるため、建設業界はさらなる工期延長のリスクに直面しています。
工場建設のプロセスは、企画立案、業者選定、基本設計と実施設計、資材の調達、実際の工事、検査、そして稼働開始と多岐にわたります。この一連の流れにおいて、発注者と受注者の間での十分な協議が不可欠です。協議が不十分だと、仕様や工期の認識にずれが生じ、プロジェクトの進行に大きな支障が出る可能性があります。そのため、計画段階から入念な調整が求められます。
さらに、工期短縮の取り組みも重要です。効率的な工程管理を行うことで、工事期間の短縮が図れれば、生産性が向上し、プロジェクト全体のコスト削減につながります。また、競争力の強化にも寄与し、早期に工場の稼働を開始することで、企業の市場対応力が高まります。